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Research
研究テーマ
- パウリ常磁性の強い超伝導体の渦糸格子における反強磁性秩序・揺らぎ
重い電子系の層状物質CeCoIn5は、2001年に発見されたスピン一重項d波超伝導体です。この物質では、パウリ常磁性効果が非常に強いため、磁場下においては、上部臨界磁場が一次転移を示し、さらに高磁場低温(HFLT)領域では超伝導ギャップが空間変調したFulde-Ferrell-Larkin-Ovchinnikov (FFLO) 状態が出現します。近年、中性子散乱実験により、二次元面に平行な磁場下では、HFLT超伝導相内に反強磁性秩序が存在することが明らかにされました。驚くべきは、超伝導相の外側では磁気秩序が存在しないにも関わらずHFLTの超伝導相内部に反強磁性秩序が出現すること、つまり、通常の競合関係とは異なり、磁場下で反強磁性と超伝導が共存的になる点です。さらに、二次元面に垂直な磁場下では Hc2(T=0) 近傍で反強磁性量子臨界点の存在を示唆する実験結果も繰り返し報告されています。こうした状況を踏まえ、パウリ常磁性の強い超伝導体における反強磁性の秩序化について理論研究を行ってきました。
我々は、超伝導相内Hc2近傍の反強磁性秩序・揺らぎは、偶然反強磁性不安定点がHc2(0)付近にあるからではなく、パウリ常磁性の強いd波超伝導体に一般的な性質であることを明らかにしました。さらに、実験で観測されていた局所的な磁束分布の異常な振る舞いが、パウリ常磁性によって誘起された反強磁性揺らぎが原因で外部磁場に対する遮蔽効果が強まっていることの帰結であることを示しました。本研究は、CeCoIn5で提起された謎に微視的な描像を与えると同時に、パウリ常磁性という極めてシンプルな効果が超伝導と反強磁性の相性を劇的に変えてしまうという新たな視点を開拓したと言えます。 - 空間反転対称性のない表面超伝導体における磁束パターン
2種類のバンド絶縁体LaAlO3-SrTiO3の接合面に実現される空間反転対称性のない表面超伝導状態に注目し、空間的に不均一な環境下で界面に平行な磁場が超伝導に及ぼす効果を調べています。この時、系の不均一さは、ヘテロ構造から生じる電場勾配に起因したRashbaスピン軌道相互作用の結合定数の空間変化に対応しています。空間変化を伴うスピン軌道相互作用と磁場によるパウリ常磁性効果がカップルすることで、通常の磁場に平行な渦糸とは異なり、界面に垂直つまり磁場と垂直な渦糸が空間的に不均一な部分に生じることを示しました。 - エアロジェル中の超流動3He
3Heの超流動状態はp-波スピン三重項対凝縮状態であり、非s波超流動のプロトタイプとして古くから研究されてきました。近年、エアロジェルと呼ばれるSiO2粒子が鎖状に繋がって構成されたスポンジ状の多孔質媒質をバルク液体の中に入れた実験により、エアロジェル中における液体3Heの超流動状態が調べられています。エアロジェルは超流動3Heに対し非磁性不純物として働きますが、この系を理解するポイントは、エアロジェルは単なる点状不純物ではなく、鎖構造を反映して少なくとも局所的にはエアロジェル壁面から生じる異方性をもっているという点です。我々は、この局所的異方性が、エアロジェル中で異方的な対状態を安定化させていることを明らかにしました。つまり、「異方性は異方的対状態を好む」わけです。
我々は、局所的異方性とは別の異方性をもつ系として、エアロジェルを一軸的に圧縮、伸張して試料全体に一様な異方性を加えた系についても考察を行いました。一様な大局的異方性も異方的な対状態を安定化させますが、伸長、圧縮によってCooper対の軌道自由度が異なる振る舞いを示すことが分かりました。伸長、圧縮によって軌道自由度が異なる異方性を示すという我々の予想は、その後実験的にも観測されています。エアロジェルを一軸的に伸長した場合には、理論解析の結果、バルク中では見られない新奇な対状態が実現することが分かり、今後この新奇な対状態が実験で観測されるのではないかと期待しています。また、超流動3Heにおいては、多くの内部自由度を反映して特異な渦芯構造が出現することが知られていますが、一軸変形を加えたエアロジェル環境では変形に応じて異方性な対状態が渦芯に現れることを明らかにしています。
