過去のセミナー
- 日時
- 5月14日 (水)
- 場所
- 京都大学理学部 5号館 413
- 講演者
- 山下 穣 氏
- (物理第一教室 固体電子物性講座)
- タイトル
- 二次元三角格子をもつ有機物κ-(BEDT-TTF)2Cu2(CN)3のスピン液体状態における熱伝導率測定
- 備考欄 (アブストラクト等)
反強磁性的に相互作用する大きさ1/2のスピンが二次元三角格子状に配置されたときの基底状態と
最低エネルギー励起はどうなるか?この問題は非常に単純でありながら、三角格子という幾何学的な
フラストレーションの為、いまだ理論的解決を見ない物性物理における大問題のひとつである。
特に、スピンが絶対零度まで長距離秩序も持たず、励起に対するエネルギーギャップも持たない
ギャップレススピン液体が実現している可能性がAndersonにより理論的に指摘され、
本当にそのような状態が存在するのか注目を集めてきた。近年、この系を研究するためのモデル物質
となりうる有機物κ-(BEDT-TTF)2Cu2 (CN)3が発見され、NMRによる測定で32 mKの極低温まで
長距離秩序の無いスピン液体状態にあることが示された。これはスピン交換相互作用J(250K)
のほぼ一万分の一であり、Jと比較して最も低温までスピン液体状態であることが示された物質
である。今、このスピン液体状態におけるギャップの有無が大きな注目を集めている。
我々はこの問題を調べるため、希釈冷凍機を用いた熱伝導率測定によりスピン励起にギャップが
存在するかどうかを調べている。熱伝導率測定はエントロピーを運ぶ励起だけを測定できるため、
絶縁層にある銅の核比熱などの不純物の影響を受けないという大きな利点がある。
80 mKまでの測定の結果、ギャップレスであったときに特徴的に現れるγT項の存在は
低温極限では見えず、0.5 K程度の小さなギャップの存在が示された。さらにこの小さなギャップは
磁場の影響をほとんど受けず、10 Teslaの磁場下でも 0.3 K程度の大きさに留まっていることが
わかった。
セミナーでは以上のような実験結果の報告と、その物理的解釈について議論を行う予定である