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日時
4月23日 (水)
場所
京都大学理学部 5号館 413
講演者
伊藤 哲明 氏
(京都大学 人間・環境学研究科)
タイトル
三角格子1/2スピン反強磁性体EtMe3Sb[Pd(dmit)2]2におけるスピン液体状態

備考欄 (アブストラクト等)

有機塩X[Pd(dmit)2]2は、 J = 200‐250K程度の反強磁性相互作用を持った二次元三角格子1/2スピンシステムを 形成している物質である。 多くの塩においては、三角格子は正三角形からかなりずれており、 低温で反強磁性秩序を生じる。 一方で、格子が正三角形に近い表題物質EtMe3Sb塩は、Jの100分の1以下の温度である 1.37Kまで冷やしても磁気秩序/スピングラス化を示さず、 又この温度までスピンギャップも開いていないことがNMR測定により明らかとなってきた[1]。 これらの結果について報告・解説する。 又、このような量子スピン液体状態において、 様々な対称性の破れが生じる可能性が近年取りざたされている。 このような可能性を探るべく、希釈冷凍機を用いて表題物質に対してさらに 低温の20mKまでのNMR測定を現在行っている。その結果、以下のようなことが明らかになりつつある。
@20mKまで、古典的な磁気秩序/スピングラス化はおこらず、量子力学的な状態にスピン系はある。
A1K近辺でT1-1の温度依存性にキンク的異常が見られる。この温度で2次相転移(即ち何がしかの対称性の破れ)が起きていると考えられる。
B低温相においてはT1-1は温度の2乗に比例し、node gapが開いたスピン励起を持っている可能性がある。 当日の発表では、これらの最新の結果についても紹介し、スピン液体状態の議論 を行いたい。

[1] T. Itou et al., Phys. Rev. B 77, 104413 (2008).