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日時
10月29日 (水), 13:30-
場所
京都大学理学部 5号館 413
講演者
南部 雄亮 氏
京大 理学研究科 固体量子物性、東大 物性研 中辻研
タイトル
二次元三角格子反強磁性体NiGa2S4の低温における新しいスピン状態

備考欄 (アブストラクト等)

NiGa2S4は正確な三角格子上にS = 1のスピンを持つ二次元ハイゼンベルク反強磁 性体である。 この物質では80 Kの反強磁性的相互作用にもかかわらず、少なくとも0.08 Kまで 長距離秩序は存在しない[1]が、 核四重極共鳴実験(NQR)、ミューオン実験[2]からは、8.5 K付近でスピン凍結が 起きていることが明らかになっている。 8.5 K以下でスピンは完全に静止せず、NQR信号が戻ってくる2 K程度までMHz程度 の遅い揺らぎを持っていると考えられる。 2 K以下の低温では、核磁気緩和率は温度の三乗に似た振る舞いをすることか ら、二次元におけるマグノン的励起の存在が示唆されている。 これは磁気比熱の振る舞いと整合しており、実際、4 K以下で磁気比熱は温度の 二乗に比例する[1]。 さらに、この二次元反強磁性状態に期待される磁気比熱のコヒーレントな振る舞 いは不純物に選択的に依存することも分かった[3]。 これはこの物質における低温状態がスピンのサイズに質的に依存した量子状態を 持つ可能性を示している。
講演ではNiGa2S4の基本物性と不純物効果を紹介し、2 Kから8.5 Kまでの中間状 態の最近の実験結果についても報告する。 この領域では非線形磁化率の発散を伴わないことから、従来型のスピングラスと は異なる新しいスピン状態が実現していると考えられる。
[1] S. Nakatsuji et al., Science 309, 1697 (2005).
[2] H. Takeya et al., Phys. Rev. B 77, 054429 (2008).
[3] Y. Nambu et al., J. Phys. Soc. Jpn. 75, 043711 (2006); to appear in Phys. Rev. Lett.