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4.  H. S. and Satoshi Fujimoto, "Torsional chiral magnetic effect in Weyl semimetal with topological defect ", arXiv: 1509.03981

ワイル半金属において、格子欠損によって引き起こされる電磁応答について議論しました。
近年、chiral magnetic effect(カイラル磁気効果、CME)と呼ばれる現象が物理の多分野で注目を浴びています。この効果はDirac/Weyl粒子系において量子異常によって引き起こされる特異な電磁応答です。具体的には、この効果によって、磁場をかけたら平行して電流が引き起こされます。物性ではDirac/Wey半金属、核物理では重イオン衝突実験においてこの効果は議論されています。
本研究では、格子欠陥によって引き起こされる有効的な磁場による、CMEに類似した効果である、torsional chiral magnetic effect(TCME)を提案しました。さらに、曲がった時空の場の理論およびtight-binding模型における数値計算によってこの効果を確かめました。
TCMEは、異なるカイラリティをもつワイル点のエネルギーが異なる場合(空間反転対称性の破れたワイル半金属)に起こる通常のCMEと違い、ブリルアンゾーンのことなる点にワイル点が存在する場合(時間反転対称性の破れたワイル半金属)に起こります。 また、CMEは現実の格子系では静的には起こらないことが先行研究[M.M.Vazifeh and M.Franz PRL(2013), N.Yamamoto PRD (2015)]によって理論的に示されていますが、格子系の数値計算等によってTCMEは格子系でも起こることがわかりました。先行研究のno-go theoremとTCMEの関連についても論文で議論しました。

2. H. S. and Satoshi Fujimoto, "Giant Nernst and Hall effects due to chiral superconducting fluctuations", Phys. Rev. B 90, 184518 (2014)
3. T. Yamashita, Y. Shimoyama, Y. Haga, T.D. Matsuda, E. Yamamoto, Y. Onuki, H. S, S. Fujimoto, A. Levchenko, T. Shibauchi, Y. Matsuda, "Colossal thermomagnetic response in the exotic superconductor URu2Si2", Published in Nature Physics

重い電子系物質URu2Si2という物質は、17.5Kで2次転移を起こし秩序相に転移しますが、この相はどういう相なのかはっきりとした理解が得られていないために「隠れた秩序相」と名付けられ、未だに研究が精力的に行われています。
しかし、本研究は隠れた秩序相自体の研究ではなく、この相内部に発現する、新奇な超伝導についての研究です。この超伝導状態は、スピントリプレット超伝導体として有名なSr2RuO4と同様に、時間反転対称性の破れたカイラル超伝導状態だと考えられています。

2013年春、山下卓也氏(京大理物・松田研)らによって、超伝導転移近傍の高温領域で、超伝導ゆらぎに起因していると思われる巨大なNernst効果が報告され、これを受けて、時間反転対称性の破れたカイラル超伝導体特有の性質を何か提案することが出来ないか理論的に研究を行いました。
そこで、「熱ゆらぎによって励起されるカイラルな凝縮体による、フェルミ準粒子の非対称な散乱」という新しい機構を提唱し、その機構によるNernst効果への寄与を系統的に調べたところ、清浄な試料で大きな寄与を与えるという振る舞いをすることが分かりました。この機構は、異常Hall効果における、不純物による非対称な散乱(skew散乱機構)のアナロジーであり、このことからこの振る舞いが定性的に理解できます。
また、この振る舞いは、高温超伝導体、乱れた超伝導薄膜におけるNernst効果の実験をよく記述する、Aslamazov-Larkin型ゆらぎによる振る舞いと真逆の振る舞いで、時間反転対称性の破れたカイラル超伝導ゆらぎ特有の性質であると言えます。
さらなる詳細な実験により、この振る舞いが確かめられ、また、そのNernst係数の温度依存性も上記のシナリオに基づいた理論計算と良くあうことが分かりました。

この成果について、松田研と共同でプレスリリースを行いました。
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/141202_1.html


I.  H. S. and Satoshi Fujimoto, "Quantum Thermal Hall Effect in a Time-Reversal-Symmetry-Broken Topological Superconductor in Two Dimensions : Approach From Bulk Calculations", J. Phys. Soc. Jpn. 82 (2013) 023602

時間反転対称性の破れたトポロジカル超伝導体における異常熱Hall効果について、バルクの観点から議論しました。
異常熱Hall効果とは、自発的な時間反転対称性の破れによって、ゼロ磁場でも温度勾配と垂直方向に熱流が流れる現象で、ちょうど、異常Hall効果の"熱"版であるといえます。本研究により、一般の系における熱Hall係数のBerry phase公式を得ることが出来ました。この公式は、カイラルp波超伝導体の場合に、エッジの理論を使って以前に得られていた結果を再現します。それに加えて、有限温度、ノードがある場合にも(よってトポロジカル超伝導以外でも)適用できます。


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