重い電子系物質URu2Si2という物質は、17.5Kで2次転移を起こし秩序相に転移しますが、この相はどういう相なのかはっきりとした理解が得られていないために「隠れた秩序相」と名付けられ、未だに研究が精力的に行われています。
しかし、本研究は隠れた秩序相自体の研究ではなく、この相内部に発現する、新奇な超伝導についての研究です。この超伝導状態は、スピントリプレット超伝導体として有名なSr2RuO4と同様に、時間反転対称性の破れたカイラル超伝導状態だと考えられています。
2013年春、山下卓也氏(京大理物・松田研)らによって、超伝導転移近傍の高温領域で、超伝導ゆらぎに起因していると思われる巨大なNernst効果が報告され、これを受けて、時間反転対称性の破れたカイラル超伝導体特有の性質を何か提案することが出来ないか理論的に研究を行いました。
そこで、「熱ゆらぎによって励起されるカイラルな凝縮体による、フェルミ準粒子の非対称な散乱」という新しい機構を提唱し、その機構によるNernst効果への寄与を系統的に調べたところ、清浄な試料で大きな寄与を与えるという振る舞いをすることが分かりました。この機構は、異常Hall効果における、不純物による非対称な散乱(skew散乱機構)のアナロジーであり、このことからこの振る舞いが定性的に理解できます。
また、この振る舞いは、高温超伝導体、乱れた超伝導薄膜におけるNernst効果の実験をよく記述する、Aslamazov-Larkin型ゆらぎによる振る舞いと真逆の振る舞いで、時間反転対称性の破れたカイラル超伝導ゆらぎ特有の性質であると言えます。
さらなる詳細な実験により、この振る舞いが確かめられ、また、そのNernst係数の温度依存性も上記のシナリオに基づいた理論計算と良くあうことが分かりました。
この成果について、松田研と共同でプレスリリースを行いました。
http://www.kyoto-u.ac.jp/ja/research/research_results/2014/141202_1.html